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MCI・認知症

MCIとは

認知症イメージ

MCI(Mild Cognitive Impairment)は、軽度認知障害のことで、認知症と健常者の間の状態を指します。
MCIの段階では日常生活に大きな支障はほとんどありませんが、半数以上が5年程度で認知症に進行すると考えられています。MCIや軽度の認知症の徴候が現れはじめた段階で適切な治療や対策をすることで、予防や進行抑制が期待できます。簡単なスクリーニング検査で判断できますので、気になる症状がある場合や、ご家族などに疑わしい症状がある場合にも、お気軽にご相談ください。

認知症とは

脳の機能が疾患や障害によって低下し、徐々に判断能力や記憶力、人・もの・時間・場所などの認識能力が低下していく疾患です。加齢では、もの忘れ、理解して覚えておく記銘力が低下しますが、認知症ではこうした加齢的変化とは異なった症状を生じます。また、認知症は原因によっていくつかのタイプに分けられ、それぞれで現れる症状も異なります。
ただし、認知症で現れる症状と同様の症状を起こす内科的疾患もありますので、疑わしい症状がある場合には血液検査や尿検査を行い、その上で認知機能を調べる簡単なスクリーニング検査を行います。なお、診断に際して頭部MRI検査が必要になる場合もありますので、その際には連携している高度医療機関をご紹介して検査を受けて頂いています。

85歳以上の4人に1人以上が認知症に

認知症は加齢により発症しやすくなる傾向があります。認知症の有病率は、65~70歳では約1.5%ですが、85歳以上では4人に1人以上の約27%と指摘されており、有病率は年齢によって大きく異なります。ただし、65歳未満の方でも発症することがあり、その場合には若年性認知症と呼ばれています。

軽度認知症

認知症と診断された状態ではなく、認知機能である記憶・決定・理由付け・実行のうち1つに問題がある程度で、日常生活には支障が及んでいない状態です。ただし、放置してしまうと5年程度で半数が認知症に進行するという指摘もあります。精神医学では、認知機能の悪化を促進させる要因の回避などについての知見があり、軽度認知症の場合も適切な治療や対処により認知機能の低下抑制効果が期待できます。軽度認知症が疑われる場合には、できるだけ早くご相談ください。

認知症の原因

認知症はいくつかのタイプに分けられ、それぞれ原因や現れる症状が異なります。認知症の原因となる主な疾患を下記で紹介しています。

アルツハイマー型認知症

認知症の中で発症者数が最も多く、よく知られたタイプです。はっきりとした原因はわかっていませんが、アルツハイマー型認知症の方の脳では神経細胞内にβアミロイドが蓄積されていることが判明しています。そして、老廃物を排出させる血液や脳脊髄液の灌流が滞ることなどで、蓄積が起こると考えられています。

アルツハイマー型認知症では、βアミロイド蓄積によって脳細胞が急激に減少します。加齢による通常の脳萎縮に比べ、記憶に関与する領域が特に萎縮しやすい傾向があります。これにより、昔のことははっきりと覚えていても、つい最近のことは忘れてしまうという症状を起こしやすくなります。ただし、進行すると記憶だけでなく、人・ご自分がいる場所・現在の時間などに関しても認識できなくなる場合があります。

症状の内容や進行の度合いには個人差が大きく、発症後長期間に渡って自立した生活を送ることができる方もいらっしゃいますが、数年で認知機能だけでなく身体機能も大幅に低下して寝たきりになるケースもあります。基本的に、初期には日常生活にさほど支障を生じませんが、進行すると認知機能の低下が目立ちはじめ、身体機能も徐々に低下していきます。

前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)

脳の前頭葉と側頭葉を中心とした領域で萎縮が起き、行動障害や人格変化、言語障害などを生じます。主に40~64歳で発症し、若年性認知症の主な原因となっています。

ルールやマナーに対して抑制ができなくなる、同じことを執拗に繰り返す、たどたどしい話し方になるなどの症状を起こしますが、初期には記憶や認知機能の低下が目立ちにくく、ご本人の意識もはっきりしています。若い方の発症が多いこともあり、認知症だとわかるまでに時間がかかることもよくあります。

社会的に不適切な行動や共感の欠如といった症状から、急に性格が変わったと誤解されることもあります。また、思うような言動ができずにイライラが募り、暴言などにつながることもあります。

レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症の次に多いタイプの認知症です。脳の神経細胞の中にα-シヌクレインというタンパク質が蓄積されて発症します。α-シヌクレインは、パーキンソン病でも蓄積されることがわかっていますが、なぜ蓄積されるのかなどのはっきりとした原因はわかっていません。なお、レビー小体型認知症ではα-シヌクレインが大脳皮質に蓄積しますが、パーキンソン病では、α-シヌクレインが脳幹に蓄積して発症します。

大脳皮質にα-シヌクレインが蓄積すると、初期にはもの忘れやぼんやりしてしまう日が現れはじめ、実際には存在しない虫や動物、人物などが比較的はっきりと見えてしまう幻視(幻覚)を生じる、気分が激しく移り変わるなどの症状を起こします。また、震えや小刻みな歩行など、パーキンソン病と共通した症状が現れることもあります。

なお、レビー小体型認知症の場合、中枢神経に作用する睡眠薬・抗うつ薬・抗ヒスタミン薬などへ過敏な反応や副作用を起こすことがあります。特に抗ヒスタミン薬は、処方薬だけでなく風邪薬、花粉症治療薬、虫刺されのかゆみ止めなど幅広い市販薬にも含まれており、注意が必要です。

血管性認知症

脳梗塞、脳出血など脳卒中(血管が詰まる、破れるなどの脳血管障害)によって生じる認知症です。脳梗塞で血管が詰まると、その先に血液が流れなくなって酸素や栄養が届かなくなった部分が壊死してしまいます。脳出血で脳に血液がたまると、それに圧迫された神経細胞が脱落します。こうした壊死や脱落が生じた部位や範囲によって生じる症状は様々です。後遺症をほとんど起こさずに自立した生活を長く続けられるケースや、リハビリによってある程度日常生活機能を回復できるケースもあります。ただし、もの忘れなどの様々な症状を起こすケースも多くなっています。徐々に認知機能低下が進み、感情の起伏が激しくなってイライラと怒りっぽくなるケースもあります。

中核症状と周辺症状

認知症の症状は、脳の障害によって直接起こる中核症状と、中核症状によって二次的に生じる周辺症状に分けられます。中核症状には、記憶障害や判断力低下などがあり、周辺症状には幻覚やうつなどがあります。

主な中核症状

記憶障害

記銘力障害とも呼ばれています。一般的なもの忘れではヒントがあれば思い出せますが、認知症の記憶障害ではヒントがあっても思い出せず、経験自体を忘れています。

たとえば、「昨日のランチ」のメニューを思い出せなくても、一般的なもの忘れでは「イタリアン」などのヒントがあれば思い出せますが、認知症になると昨日ランチを食べたことも忘れてしまっています。

こうした記憶障害によって、大事なものの保管場所をご自分で変えたにも関わらず、以前置いてあった場所を見て「盗まれた」と思い込んでしまう妄想の周辺症状を起こすこともあります。

見当識障害

今が何年何月何時何分なのか、自分が現在いる場所はどこかのかがわからなくなります。

理解力・判断力の低下

認識できるまでに時間がかかるようになり、適切な判断ができなくなります。素早い判断ができなくなり、長くご自分で安全に運転されていた方でも、気付かずに危険運転をしてしまう可能性があります。

失語・言語障害

脳梗塞や脳出血など脳血管障害による認知症では、障害を受けた部位により失語・言語障害を起こすこともあります。読む・書く・話すことが困難になり、うまくコミュニケーションをとれなくなることで抑うつ気分の周辺症状を起こすケースもよくあります。

失行

以前は普通にできていたことができなくなる状態です。服を着替えられなくなる、電話をかけられない、エアコンのスイッチのオンオフができないなどです。また、手順が混乱してしまうなどもあります。

失認

視力に問題がないのに、ものや人物を認識できなくなる状態です。家族を見ても誰かわからない、自分がいる場所がわからない、異なるものと見間違える、遠近感や立体感を把握する視空間認知が機能不全を起こすなど様々な症状を含みます。

主な周辺症状

幻覚

レビー小体型認知症によくある症状です。かなりはっきりと、実際には存在しない虫や人などの幻視が起こります。夜間や寝付く直前に生じやすい傾向があります。なお、幻聴はないわけではありませんが、かなりまれです。

妄想

事実ではないことをご本人が真実であるとかたく思い込み、修正できない状態です。「盗られ妄想」などの被害妄想も少なくありません。

興奮

怒りで病的に興奮している状態であり、感情をコントロールする機能が低下していると感情の抑制ができなくなり、社会的に適切な行動をとるという自制もきかず、我を忘れた暴言や暴力を起こすこともあります。

不安

理解力や判断力が低下すると過度な緊張や恐怖に襲われやすく、実際には特に問題がないことでも不安を感じてしまうことがあります。家族、警察や消防などに何度も電話して訴えるなどを起こすこともあります。また、こうした行動をとってしまう不安から、引きこもってしまうケースもあります。

うつ

抑うつ気分は認知症で起こりやすい周辺症状ですが、うつ病の中には認知症の症状を生じる仮面認知症があり、仮面認知症の場合には、抑うつ気分を改善させることで認知機能の改善も期待できます。
抑うつ気分自体には変わりがありませんので、治療を続けながら抑うつ気分が改善されても認知機能の低下が続く場合には認知症の周辺症状と考えられ、状態を把握した上で適切な時期に心理検査を行います。

問題行動

徘徊は、外出して今いる場所がわからなくなってさまよってしまうケースと、自宅を知らない場所だと思い込んで自宅を探しに出かけてしまうケースがあります。それまで特に大きな問題がなかったのに、普段の買い物などで出かけて迷ってしまい、遠い場所で保護されることもあります。徘徊はご家族からのsラウドなも少なくありません。
他にも問題行動では、「食べたことを忘れてしまう」というアルツハイマー型認知症に多い症状があります。何度も食事をしてしまい、肥満、高血圧、糖尿病などの疾患を合併することもあります。

MCI・認知症の診断

認知症を疑うきっかけには、もの忘れをはじめとした記憶障害、買い物・料理・服薬や金銭の管理などの手段的ADL障害があります。高齢者の手段的ADL障害は、軽度認知障害(MCI)の予測に有効という指摘もされていますので、買い物や金銭感覚の変化に気付いた場合には、気軽にご相談ください。

認知機能障害が疑われる場合には、認知機能検査を行って診断し身体的疾患が疑われる場合にな血液検査や尿検査などを行うこともあります。また、状態によっては、頭部MRI検査を連携している高度医療機関で受けて頂く場合もあります。

診断結果を踏まえ、症状や状態に合わせた治療方針を患者様やご家族と相談しながら立てていきます。

認知症のリスク

認知機能障害の頻度が高いとされている、75歳以上、HbA1c 8.5%以上、重症低血糖の既往、脳卒中(脳梗塞・脳出血など)の既往がある場合には注意が必要です。

MCI(軽度認知障害)・認知症の治療

MCIを改善するために有効な対策として、食事や運動といった生活習慣の改善、認知機能のトレーニングなどがあります。高血圧・脂質異常症・糖尿病などはMCIのリスク要因とされていますので、こうした疾患がある場合には適切な治療を受け、継続してコントロールすることが重要です。

なお、認知症は、根本的な治療が難しい認知症と、治療が可能な認知症に分けられます。治療可能な認知症は、内科的疾患が原因で生じていますので、原因疾患の治療により認知症症状も改善が期待できます。また、薬の副作用として認知症のような症状を起こすことがあり、その場合にも処方を変更することで改善が期待できます。
アルツハイマー型認知症、血管性認知症など、脳神経の変性や脱落などによって生じる認知症には、現在でも完全に治す治療法は存在しません。アルツハイマー型認知症、血管性認知症などの場合、症状をできるだけ緩和させる、進行をできるだけ遅くすることを目標に、薬物療法やそれ以外の療法を組み合わせて治療を進めます。
なお、血管性認知症の場合、脳卒中の原因となった高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療とコントロールを行うことで、再度脳卒中を起こさないようにすることも重要です。

MCIと運動

いくつもの研究で、運動の認知機能への効果が証明されています。特に加齢とともに減少するドーパミンの増強など、脳内への直接の影響だけでなく、心血管系が強くなることで脳血流等が改善されたり、肥満、インスリン抵抗性の改善による脳機能の改善も報告されています。
ただし、いつ、どのくらいの運動が適切かは専門的な判断が必要になります。当院では、回復状態を注意深く評価しながら、専門の運動プログラムを計画します。

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認知症とリラクゼーション

認知症の方にタクティール®ケアを継続的に行うと、自分自身の身体の認識や自己意識の向上、身体的・精神的な症状を和らげることがあります。しかし、全ての認知症の方に適用できるわけではなく、望まない方に対しては行わないというのも、タクティール®ケアの大切なルールです。
また、タクティール®ケアで分泌されるオキシトシンは、触れられた人、触れた人双方に分泌されることから、お互いの信頼性の向上も期待されることから、施設や病院でも導入されています。

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認知症に関するよくある質問

加齢によって誰でもいつかは認知症になりますか?

認知症は加齢によって発症リスクが高くなる病気であり、加齢によるもの忘れとは違います。高齢になることで誰もがかかる可能性のある病気ですので、気になる症状がある、または75歳を超えたらスクリーニング検査を受けておくようお勧めしています。。

もの忘れは認知症の症状ですか?

もの忘れは認知症でも起こりますが、認知症ではない場合でももの忘れを起こすことはあります。認知症の場合、もの忘れだけでなく、様々な認知機能障害を起こします。認知症は疾患や障害により脳の機能が低下し、判断能力や記憶力、人・もの・時間・場所などの認識能力が低下していく疾患です。もの忘れをはじめとした記憶障害、計算障害、見当識障害など幅広い認知機能に障害があってはじめて認知症と診断されます。

認知症とは、アルツハイマー型認知症のことですか?

認知症はいくつもの疾患の総称であり、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・血管性認知症などを含みます。アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も患者様が多い疾患です。

認知症では徘徊や興奮などの症状を起こしますか?

認知症は、それぞれの疾患によって現れる症状が異なります。こうしたことから、症状は診断の参考になり、将来現れる可能性のある症状の予測にもつながります。徘徊や興奮など、周囲へ大きな負担をかける可能性が高い症状の将来的な予測は重要になります。認知症が疑われる症状がある場合には、できるだけ早くご相談ください。

軽度認知障害は初期の認知症のことですか?

認知症になる前の段階とされていますが、認知症という診断はできない状態ですので、認知症ではありません。軽度認知障害は、日常生活への支障もほとんどありません。5年程度で約半数が認知症を発症するという指摘がありますので、軽度認知障害の場合には、進展を防ぎ、進行させないための治療や対応が重要になります。

うつ病と認知症を区別できますか?

認知症でも抑うつ気分を生じることがあり、うつ病でももの忘れや判断力低下を伴う仮面認知症を生じることがあり、高齢になってから発症するうつ病と認知症との鑑別は実際にも困難です。うつ病では発症時期が明快なことが多く、認知症は徐々に進行していくケースがほとんどを占めるなどの違いはあります。また、認知症ではもの忘れを隠しますが、うつ病ではもの忘れの症状を訴えるという傾向もあります。ただし、こうした傾向には例外もあります。また、認知症とうつ病が合併しているケースもあり、うつ病がない方に比べるとうつ病がある方がレビー小体型認知症やアルツハイマー型認知症を発症しやすいという指摘もされています。
重要なのは、つらい抑うつ気分を適切な治療で緩和させ、治ってからも長期的に経過を観察することです。

認知症の薬は改善効果がありますか?

アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・血管性認知症に関しては、現在使われている薬で認知症の機能を改善させることはできません。こうした治療薬は、現在の認知機能障害の進行を抑制することを目的に処方されるものです。

認知症は治らない病気だとしたら、専門医にかかる意味はありますか?

うつ病の仮面認知症の場合、適切な治療によって認知機能の改善が期待できますので、専門医を受診して本当に認知症かどうかを確かめることはとても重要です。専門医にかかれば、認知症かどうかを確認して、認知症の場合もどのタイプであるかまでわかります。早期であれば進行を抑制する治療が有効になる可能性も高くなります。また、認知症のタイプがわかることで将来的に起こる可能性の高い症状についても知ることができ、その場合の適切な対処法や、周囲の方への負担を抑えるための対策などについてもわかりやすくお伝えできます。ご本人のつらさやご家族の負担を抑えるためにも、早めの専門医受診をお勧めしています。

認知症の診断はどう伝えられていますか?

当院では、認知症の検査と診察から鑑別して、認知症・軽度認知障害の有無を判断し、認知症ではなく・軽度認知障害であれば、結果をご本人とご家族にお伝えしています。認知症であった場合も結果をご本人やご家族にお伝えするのが原則ですが、ご本人に興奮や不安、抑うつ気分などの周辺症状が強く出ている場合には、ご家族に先にお伝えした上で、こうした症状を薬物療法で緩和させ、その後にご本人へお伝えする場合もあります。その際には、進展状況や診断の受け入れができるかという点も考慮して最終的な判断としています。専門医によっても伝え方が違いますので、ご家族などで心配がある場合には事前に相談してみることをお勧めします。
なお、薬物療法では、内服を続けることで認知機能の維持を期待できます。認知症が進行していると、一旦は診断を受け入れて納得した治療を受けていても症状が進行して「よくわからないまま定期的に病院へ連れて行かれ、わけがわからない薬を内服しているのが不安になり、服薬を中断してしまう」ケースもあります。当院では、患者様が現在や将来の生活にできるだけ希望や明るい気持ちを持って過ごせるよう配慮し、ご家族とも話し合った上で最適な伝え方を心がけています。