強迫性障害(強迫神経症)とは
ご自分でも不合理だとわかっているのにその考えから抜け出せない、特定の行為を何度も繰り返してしまうなどにより日常生活に支障を生じる疾患です。
鍵のかけ忘れやスイッチの切り忘れが気になって何度も戻ってしまい遅刻を繰り返す、ものの配置にこだわってしまい少しでも乱れていると直さずにいられない、過剰な潔癖により執拗に手洗いを繰り返してしまうなどの様々なタイプに分けられます。
なお、特定の行為を繰り返す強迫性障害は、激しい恐怖や心配によって生じた強迫観念によって生じる認知タイプと、自分の行動への違和感から繰り返しを生じる運動性タイプに分けられ、運動性タイプの場合は自覚が伴わず、周囲からの指摘を受け入れられないケースがよくあります。
認知タイプ
激しい恐怖や心配などによる強迫観念を解消するために、特定の行動を過度に繰り返します。外出すると病気になるという考えに捕らわれて何度も手を洗う、戸締まりやスイッチの切り忘れが気になって何度も確認に戻って遅刻してしまうなどがあり、進行すると外出もままならなくなります。
こうした繰り返しの行為や儀式的行為に対して、無意味・不合理と頭では理解しているケースも多いのですが、それでも行為を繰り返したいという欲求を抑えられず、抑えられないことに対してのストレスや苦痛も感じています。
運動性タイプ
ご自分の行った行動に違和感を生じ、納得できるまでその行為を繰り返します。
鍵をかける際の手応え、話しはじめのタイミングなど、ピタッとうまくはまる感覚がないと気持ち悪さを感じ、その感覚が伝わってくるまで何度も繰り返してしまう症状を起こします。
日常生活に支障が生じても自覚できないケースもあり、治療の開始が遅れやすい傾向があります。
強迫性障害(強迫神経症)の症状
不潔恐怖
汚れや病原体などへの激しい不安や過剰な嫌悪感を生じ、何度も執拗に手を洗う、外出時にできるだけものに触れないようにする、帰宅したら着用していた衣類を全て洗濯するなどの強迫行為を繰り返します。
加害恐怖
自分の行動によって無自覚に第三者が傷付いているという強い不安が生じ、ニュースサイトや新聞、テレビを何度も確認する、周囲に問い合わせるなどを繰り返します。加害の可能性に根拠があるわけではありません。
確認行為
戸締まりやスイッチの切り忘れなどが気になって何度も戻って確認してしまう状態です。何度も確かめますが、自分の記憶や判断に自信が持てず、不安が拭えないまま、外出できなくなるケースもあります。
儀式行為
ご自分で決めたルールや順番を正確に守って行動しないと違和感や気持ち悪さ、恐ろしいことが起こる不安などが生じ、やり直したいという強い欲求が起こり、納得できるまで繰り返してしまう状態です。
着替えの順番、入浴の手順など様々な儀式行為があります。
数字へのこだわり
特定の数字に強くこだわりますが、過度な好感を持つケースもあれば、強い嫌悪感を抱くケースもあります。
不吉とされている4や13を過度に避ける、ラッキーナンバーとされている7などを過剰に好むなどがあります。回数や順序にまでそれが及ぶ場合もあります。また、特定の数字にメッセージ性を感じるといった症状を起こすこともあります。
配置へのこだわり
特定の位置や角度に置かれていないと居心地が悪く、ご自分で正しいと思う位置や角度に直さずにはいられない症状です。
テーブルの上のリモコンの角度がずれている、書棚の本の配置が乱れているなどに強い恐怖や激しい嫌悪感を覚え、直さずにはいられません。
強迫性障害(強迫神経症)になりやすい人
強迫性障害になりやすい傾向のある性格には、下記のようなものがあります。
- 完璧主義
- 真面目
- 几帳面・細かいことまで気を配る
- こだわりが強い
- 融通が利かず、突発的なことに弱い
- 責任感が強い
- ストレスをためやすい
こうした性格の場合、高い理想や過剰な責任感からご自分に対して厳しくなり、こうしなければと考えたことができなかった際に激しい嫌悪や恐怖を感じ、それによって強迫性障害を発症するケースがあります。
また、融通が利かずこだわりが強い場合には、間違った考えを正しいと思い込んでしまうケースがあります。
強迫性障害(強迫神経症)の原因
はっきりとした原因はわかっておらず、気質・環境・遺伝や生理学的な要因が複雑に関与して発症するとされています。
気質要因
個人の性格、生まれつきの気質に加え、成長に従って形成された性格も含まれます。幼少期の躾や教育、感情の否定なども関与すると考えられており、自己肯定感の低さや過剰に抱いてしまう責任感などが発症につながるとされています。
環境要因
過去に経験したトラウマ、現在までを含む強いストレスなどです。虐待やDVは強迫性障害の発症リスクを上昇させると指摘されています。生活や職場、学校、人間関係などのストレスも発症や症状悪化につながります。
遺伝要因・生理学的要因
遺伝子や脳の働きも強迫性障害の発症に関与すると考えられています。両親のどちらか、あるいは両方に強迫性障害がある場合でも、必ずそれが子どもに遺伝するとは限りませんが、幼い時期に発症した場合には遺伝的要因が強く疑われます。
脳の働きとしては、神経伝達物質のバランス、脳機能の問題も原因に関与すると考えられています。特に神経伝達物質であるセロトニンの働きが乱れると激しい嫌悪や恐怖を起こしやすくなることがわかっています。
強迫性障害(強迫神経症)の治し方
薬物療法
セロトニンの働きを調整する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が主に使用されます。うつ病でも処方される薬ですが、強迫性障害では症状や状態に合わせて容量を慎重に調整して処方することで効果が期待できます。
それ以外では、抗不安薬、非定型抗精神病薬などを組み合わせて処方することもあります。その際には症状、体質、状態などを踏まえ、副作用についても十分に考慮して調整しています。
認知行動療法
強迫観念を起こす原因や、その際の感情を見つめ直し、症状につながる思考自体を変えていく治療です。
戸締まりが気になる場合には、どうして鍵をかけたかどうかが気になるのかをとことん考える、1回のみの確認を試してみるなどを行います。考え方の歪みを丁寧に洗い出すことで合理的ではない思考が修正され、強い嫌悪感や恐怖を生じにくくなり、症状緩和につながります。